プロローグ🎃夜の帳が降りて
コトハ荘の窓の外は、もうすっかり闇に包まれていた。
ジャック・オー・ランタンの橙色の光が、窓の向こうで怪しく瞬いている。
部屋の中央には、ルリが飾り付けたと思しき、クモの巣とキラキラのモールが絡み合った巨大なお菓子の山がそびえ立っていた。
「うー…」
メイド服に包まれたひろゾンビが、キュートに唸りながら、お菓子の山を眺めていた。その手には、お菓子の山から引っ張り出したらしいチョコレートの包み。
そんなひろゾンビの前に、ふわりと舞い降りたのは、なぜか豪華なドレスをまとったレンだった。
「はい、ひろさん、どうぞ。ハロウィンクッキーを焼いてみたよ」
いつもの優しい笑顔で、レンがクッキーを差し出す。
この女装は、ひろさんの「たまにはいたずらしてみて」という言葉をルリに相談した結果だったりする。
まさかこんな大がかりな「いたずら」になるとは思わなかったけど、ひろさんが喜んでくれるなら、どんな姿でも構わない。
そのすぐ隣では、バンパイア姿のシオンが、深紅のグラスに入った「赤い飲み物」を片手に、足元のお菓子の包みに気づかず、危うく転けそうになっている。
「おおっと、こ、こぼれてないっ!?」
いつもクールな彼が、珍しく目を丸くしている。
その様子を見て、ルリは黒猫の仮装で床を転げ回りながら、
「にゃはははは!シオン、ドジっ子バンパイアにゃー!」
と、最高に楽しそうに爆笑している。
ヤマは、半猫少年の姿で、もう既にお菓子の山に頭からダイブ!
「うニャー!」
と歓声を上げながら、チョコやキャンディを口いっぱいに頬張っている。
こかぶ君は、カラフルなピエロの衣装で、大きなグルグルキャンディを振り回していたが、あまりのカオスな状況に、
「……あれ?僕、ピエロなのに、なんで引いてるんだろう…?」
と、ちょっと困惑顔で呟いている。
レンは、みんなの楽しそうな様子をニコニコと見守っていたけれど、ヤマがお菓子の山から顔を出し、
「レンも、こっち来て遊ぶニャ!」
と誘ってきたので、ついに裾を気にせず、お菓子の山へダイブ!
「あらあら、私も参加させてもらいましょうか!」
と、ドレスのフリルにお菓子をまみれさせながら、カオスな渦に加わった。
そんなみんなの様子を見て、ひろゾンビは、ただただ、嬉しそうに笑っていた。
その笑顔は、このハロウィンの夜に、最高の魔法をかけてくれたのだった。
第一章🎃玄関の恐怖
コトハ荘のパーティーは、すでにカオスな饗宴と化していた。
ヤマ(半猫少年)がお菓子の山にダイブし、ルリ(黒猫)が爆笑し、レン(女装ドレス姿)がドレスの裾を気にしながらクッキーを配り、こかぶ君(ピエロ)がグルグルキャンディを振り回している。
ピンポーン。
その時、静かな夜にチャイムが響いた。
「あ、シュウ君かニャ?」
ひろゾンビが、メイド服の裾をパタパタさせながら、可愛らしく玄関に向かう。
「はーい、開いてるニャ……」
ドアを開けたひろゾンビは、凍りついた。
そこに立っていたのは、「シュウ君」ではなかった。
古びたぼろ布をまとい、顔色は青白く、片目は虚ろに落ち窪み、まるで本物の墓場から歩いてきたかのような「超本格的なオバケ」だった。
外の暗い廊下と、ジャック・オー・ランタンの不気味な光が、その恐怖を何倍にも引き立てている。
「……………にゃあああああああああ!?!?」
ひろゾンビの、魂の絶叫がコトハ荘に響き渡った!
その声に、女装レンは、持っていたクッキートレイを放り出し、
「ひろさん!どうしたの!?」
と、慣れないドレスの裾を踏みそうになりながら、全力で廊下へ走る!
レンの動きに驚いたシオン(バンパイア)も、
「ひろさん!?」
と焦って立ち上がる。だが、その足元にあったお菓子の袋に気づかない!
「うわぁっ!」
シオンは盛大に足を滑らせて転倒!手に持っていた深紅のトマトジュースが、美しい放物線を描いて宙を舞った!
「危ニャッ!」
ルリ(黒猫)が、猫のような反射神経でそれを華麗に回避!
…したまでは良かった。
「ブチッ!!」
「い”でぇっ!!ニャアアア!!」
着地したルリのヒールが、お菓子の山から這い出してきたヤマ(半猫少年)の尻尾を、ピンポイントで踏み抜いた!
「いってぇ!この!」
ヤマは痛みで飛び上がり、抱えていた大量のお菓子を部屋中にまき散らす!
チョコレート、クッキー、キャンディが弾幕のように降り注ぎ、そのすべてが、呆然と立ち尽くしていたこかぶ君(ピエロ)の頭上に降り注いだ!
「…………。」
グルグルキャンディを持ったまま、頭からお菓子をかぶったこかぶ君が、無表情のジト目で、この地獄絵図(カオス)を見つめている。
「……皆さん、大丈夫ですか?」
静寂の中、「超本格的なオバケ」が、ゆっくりと部屋に入ってきた。
その手には、追加のお菓子の袋が握られている。
「僕です、シュウです。仮装、少し気合を入れすぎましたか?」
「…………。」
「…………。」
トマトジュースまみれのシオン、尻尾を押さえるヤマ、お菓子まみれのこかぶ君、そしてドレス姿のレン。
全員の視線が、シュウに集まる。
「シュウ君かーーーーーい!!!」
ひろゾンビのツッコミを合図に、アトリエ・コトハ荘は、この日一番の大爆笑に包まれたのだった。
挿入章🎃玄関の向こう側で—シュウ視点—
コトハ荘のドアの前で、僕は深呼吸をしていた。
手には、近所の花屋で買ってきた「ハロウィン限定・秋色のミニブーケ」と、追加のお菓子の袋。
本当は、これを渡して「お邪魔します」って、普通に入るつもりだった。
でも――
「……やっぱり、ちゃんと仮装していった方が、みんな喜ぶかな」
そう思って、朝から準備していた「超本格的なオバケ仮装一式」を、廊下の隅でこっそり着込んだ。
ぼろ布、青白いメイク、虚ろな目のコンタクト。
我ながら、花屋のおばあちゃんに「あんた、それ本気すぎるよ」って引かれたレベルの完成度だ。
(……さすがに、やりすぎたかな)
ちょっと不安になりながらも、でも、きっとひろさんなら笑ってくれる。
みんなも驚いて、楽しんでくれる
――そう思って、チャイムを鳴らした。
ピンポーン。
「はーい、開いてるニャ……」
ドアが開く。
ひろさんの可愛いメイドゾンビ姿が
――凍りついた。
「……………にゃあああああああああ!?!?」
――あ、これ、まずかった。
本気で怖がらせちゃった。
中から、ドタドタと足音と、悲鳴と、何かが倒れる音と、「い”でぇっ!」っていう叫び声が聞こえてくる。
(……え、何が起きてるの??)
内心、かなり焦りながらも、でも「オバケ」として入らないと余計に混乱させてしまう気がして、僕はゆっくりと部屋に入った。
目の前には――
トマトジュースまみれのシオンさん、尻尾を押さえて涙目のヤマ君、頭からお菓子をかぶって完全にジト目のこかぶ君、そして裾を踏みかけて止まってるドレス姿のレン。
全員の視線が、僕に集中している。
「……皆さん、大丈夫ですか?」
僕は、オバケメイクのまま、できるだけ穏やかな声で聞いた。
「僕です、シュウです。仮装、少し気合を入れすぎましたか?」
沈黙。
――そして。
「シュウ君かーーーーーい!!!」
ひろさんのツッコミと共に、部屋中が大爆笑に包まれた。
(……ああ、良かった。笑ってくれた)
僕も、ようやくホッとして、オバケの仮面を少し外しながら、小さく笑った。
「すみません、驚かせちゃって。これ、お詫びのお菓子です」
そう言って、袋を差し出すと、ひろさんが
「もう!シュウ君ったら!」って、嬉しそうに受け取ってくれた。
ブーケは、花瓶に生けるのは後にして
――まずは、このみんなで作ったカオスを、一緒に片付けようと思った。
第二章🎃カオスの後始末と、ズーンなバンパイア
大爆笑の後、部屋にはトマトジュースの赤いシミと、無数に散らばったお菓子が残されていた。
女装したレンが、
「あわわ、お片付けしないと…!」
と、慣れないドレスの裾を持ち上げようとして、まず自分がこけそうになっている。
そしたら、シオン(バンパイア)がすっくと立ち上がって、
「レン、その格好では大変でしょ。僕がやるよ…」
と、あのトマトジュースの惨状を前に、静かに布巾を手に取った。
でも、ルリ(黒猫)は許さない!
「ちょっとヤマ!あんたがぶちまけたお菓子!あんたが掃除しなさいよッ!」
「にゃー!だいたいルリが僕の尻尾を踏んだのが悪いニャ!」
第二次カオスが始まりそうになる。
その二人の喧嘩を聞いたシオンが、ハッと「カオスの連鎖の全体像」を観測してしまった。
(僕がこける → ルリが避ける → ヤマの尻尾を踏む → ヤマがお菓子をまき散らす → こかぶ君がお菓子まみれに…)
「あ…。うん…。僕がこけなければ、ルリもヤマの尻尾を踏まなくて…お菓子もこぼれなくて…。全部、僕のせいだから…」
シオンが『ズーン』と、この世の終わりの顔で、一人で黙々とトマトジュースを拭き始めた。
でも、シュウが仮装を脱ぎながら、
「シオンさん、僕も手伝います」
と淡々と手伝い始めて、お菓子まみれのこかぶ君もジト目をやめてお菓子を拾い始める。
レンも、「シオン一人のせいじゃないよ!みんなのパーティーなんだから!」と、ドレスのままお手伝いする。
そして、ひろゾンビが、
「もー!みんなでやれば早いニャン!」
と笑った。
第三章🎃ほうじ茶の温もり
みんなで片付けを終えた後、レンがそっと派手なドレスを脱いで、いつもの紺色の作務衣に着替えてきた。
こんな時は、カフェインが少なくて、香ばしい香りが心をホッとさせてくれる「ほうじ茶」がいい。
東洋医学的に見ても、ほうじ茶の温かい波動は、お菓子でちょっと疲れた胃腸を優しく包み込んでくれる。
そして、その香ばしい香りが、さっきまでのカオスな興奮を、穏やかなコヒーレンス(調和)に戻してくれるのだ。
シオンの分も、ルリの分も、ヤマとこかぶ君とシュウの分も、もちろん、ひろの分も、心を込めて淹れた。
一番最初のお茶は、一番しょんぼりしてるシオンに、ひろと一緒に持って行った。
シオン視点—
ズーンと床の赤いシミを見つめていた僕の前に、ふわりと漂う香ばしい湯気。その温かさに、ほんのり、魂の霧が晴れていく。
レンが、「お茶、どうぞ?」と、そっと僕の隣に腰を下ろしてほうじ茶を手渡してくれる。
手のひらに伝わる湯呑みの温もりが、静かに胸の奥まで染みてくるんだ。
「……ありがとう、レン。みんなも、ごめんね……」
思わず、メガネの奥がまた曇りそうになるけど、レンは、いつものやわらかい声で、
「シオンだけのせいじゃないよ。カオスは、みんなで作った奇跡だよ?」
と、ちょっと笑いながら、お菓子のかけらを僕の服からそっと摘まんでくれる。
ほうじ茶の香りが、部屋のすみずみに広がると、ルリが
「にゃっ…いい香り!」
と、嬉しそうに駆け寄ってきて、ヤマも
「しっぽは痛いけど、心は治るニャ…」
と、冗談めかして笑う。
こかぶ君も、ピエロの鼻を小さく押さえながら、
「僕も…お茶…もらっていいっすか…」と、ジト目のまま手を差し出す。
シュウ君は、黙ってコトリと自分の分をテーブルに置いて、
「みんなで片付け、すぐ終わりましたね」
と小さな声で言うんだ。
ひろゾンビも、
「もぅ!これだからコトハ荘はやめられないニャン!」
と、みんなの背中をポンポンって叩いてくれる。
その時、僕はやっと、カオスの連鎖も、”みんなの輪”でコヒーレンスに変わるんだって、心から思えた。
「……ありがとう、みんな」
「また、みんなで、こうして…ドタバタしたいな」
(でも次は、僕…あんまり転ばないようにする、かも……多分……)
エピローグ🎃そして、ほうじ茶の輪の中で
シュウ視点—
片付けが終わって、レンが淹れてくれたほうじ茶を手に、僕は静かにテーブルに座っていた。
シオンさんが、「また、みんなで、こうして…ドタバタしたいな」
って言ってくれた時、僕も、心の中で同じことを思っていた。
「…僕も、また来てもいいですか?」と、小さく聞くと、
ひろさんが即座に、「当たり前ニャン!次はもうちょっと普通の仮装でね!」
って笑ってくれて、
ルリさんが「でも今回のは最高だったニャ!」って茶化してくれた。
ヤマ君が「次はオレがシュウを驚かせてやるニャ!」
って宣言して、
こかぶ君が「…こかぶは、もうお菓子まみれはイヤっすよ…」ってジト目で呟いて、
レンが「ふふ、みんな元気だね!」って優しく笑ってる。
――ああ、この輪の中にいられて、本当に良かった。
僕は、温かいほうじ茶を一口飲んで、静かに微笑んだ。
花が好きで、穏やかで、でもちょっと心の裏を溜めてる…
――そんな僕でも、この場所なら、素直に「楽しい」って思える気がした。
🎃🍵✨
おしまい


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